電子ディスカバリーでの制裁措置(Sanction)

以前セクハラのケースでの電子ディスカバリー義務違反のSanction(制裁措置) の例を紹介しましたが、制裁措置のニュースには企業、法律事務所やサービスプロバイダーなどが常に注目をしています。
Zubulake v. UBS Warburgでは被告側が電子データ保存義務に違反し、故意に関連データを消去したとされ、最終的には陪審員により被告側に原告への$29.2 millionの支払いを命じられたというショッキングな前例もあります。
Zubulake v. UBS Warburg LLC, et al., S.D.N.Y 02 CV 1234(SAS) 7/20/04; 2004 U.S. Dist. LEXIS (S.D.N.Y, July 20, 2004).
King & Spalding法律事務所が昨年末にDuke Law Journalに寄稿したレポートによれば1980年~2010年までの401のケース中、ディスカバリーでの制裁措置を受けたケースが230あったそうです。2003年に制裁措置を受けたのは7ケースのみでしたが、2009年には97ケース中46ケースが制裁措置を受けています。
つまり2003年から2009年の6年間に電子ディスカバリーでの制裁措置を受けたケースが6.5倍にも上昇し、半分以上のケースがその義務違反をしたという事になります。
230ケース中の131ケースは「Failure to Preserve」、73ケースは「Delay in Production」となっています。電子データの保存義務の不執行と提出資料の遅れが大きな問題としています。
電子保存情報(Electronically Stored Information: ESI)が扱われる事は、訴訟やコンプライアンス対応に際してのディスカバリーを行う際に必要不可欠なプロセスとなってきました。
それは必要とされる情報が電子データという形式で存在しているからです。
e法務ディスカバリでの最初のチャレンジが、担当弁護士達が電子保存情報から関連のあるものだけを抽出して保全、そして提出可能なフォーマットにするプロセスです。次のチャレンジはe法務ディスカバリうためのコストがその訴訟やコンプライアンス対応に際して見合ったレベルで抑えられるのかという事です。
特に企業にとってe法務ディスカバリは分散されたネットワークに存在する様々なデータ源から必要なデータを収集し選択する必要があり、作業が大変複雑だけでなく、インテリジェントな検索がされなければ多くの関連の無い資料も弁護士が目を通してレビューをしなくてはいけません。これは余計な時間がかかるだけでなく、それに関わるコストが膨れ上がってしまう事になります。
またこのレポートでは被告側の制裁措置が原告側よりも3倍多くされているという事が報告されています。それは被告側がe法務ディスカバリプロセスに於いてより広い範囲での電子データを保存しておく必要があるからです。e法務ディスカバリでの制裁措置は年々上昇傾向にあることを示しており、企業側が訴訟を受けた際は広範囲な電子データの証拠保全を的確な防御性を持って行う必要があります。
企業内では情報マネジメントシステムが有効に活用されつつありますがその情報量に追いついていないのが現状です。社内、クラウド、個人端末など異なったデータ源、データ形式にて存在する全ての電子データを把握、抽出、検索そして管理可能な状態にしておく事が非常に重要です。
AOSではこのような電e法務ディスカバリのノウハウをお客様に提供させて頂いております。是非ご相談下さい。

e-Discoveryのコストを抑えるポイント

e法務ディスカバリの訴訟コスト抑制に貢献することは、企業だけでなく、弁護士にも非常に重要なことです。
海外訴訟におけるe法務ディスカバリだけでなく、国内訴訟においても、電子データが証拠として活用されるケースが増加しています。企業内のデータは巨大化しているため、この対応コストが自ずと巨額になってしまいます。
特に昨今の経済状況においては、コストを抑えつつ効果的な結果を導きだすため、弁護士がe法務ディスカバリソフトウェアを適切に活用することが重要です。それにより、クライアントにも大きく満足感を与えることができます。
■目標達成のための条件を、ベンダーと共に明確化しておく。
データ収集とレビュー段階においては、マイルストーンを定めておくことが必要です。
データの収集とイメージングでは、画像や文書などの多様なファイルを種類ごとにフィルタリングし、予め不要な種類のファイルは除外したり、データセット内の重複を排除したりする他、あるデータセットの中からレビュー対象となるデータをレビュー用プラットフォームに処理するなどの作業が行われます。
無駄を省き作業を効率化するために、ベンダーも弁護士も十分に知識を備え、以下のような項目について事前協議しておくことが重要です。
・対象となるデータはどのように選別できるか?
・キーワードおよび検索条件は?
・提出フォーマットは何か?
・何が証拠となるのか。そのデータは抽出できるのか?
・データのボリュームや複雑さに応じた製品の選択。
■データの処理と収集
費用を削減するために、データを適切に間引いていくこと(データカリング)を行いますが、弁護士が、必要データと不要なデータを見極めて、ベンダーによる作業を主導していくことになります。
コスト削減の観点では、重要なデータにコストを集中投入し、明らかに関連のないデータは削除することが重要です。証拠データを意図的に隠蔽したという疑いをもたれないため、また重要なデータがどこに埋れているかわからないという不安から、すべてのデータをレビューしてほしいと考える企業(顧客)もあるかもしれません。しかし、これはコストと時間のどちらから考えても非現実的であり、正確な状況判断が求められます。
■関係各所との適切な連携と、責任の明確化
e法務ディスカバリの作業においては、各タスクの責任の所在を明確化することと、外部弁護士、企業IT部門、法務部門などがきちんと連携をとることが重要です。
万が一にも、連携不足ゆえに関連データを網羅できず制裁を受けるような結果にならないよう、十分に注意を払っておきましょう。

判例:電子ディスカバリーの対応ミスによる、巨額の制裁金

弁護士が訴訟の対象となり、電子ディスカバリーが注目されたケースをご紹介します。
Moreno v. Ostly, No. A127780, 2011 WL 598931 (Cal. Ct. App. Feb. 22, 2011)
Alison MorenoさんはThomas Ostly弁護士の下で働くパラリーガル(法律事務職員)でした。何らかの理由でOstly氏はMorenoさんを解雇したのですが、Morenoさんは「Ostly氏が解雇した理由は、彼との恋愛関係を続ける事を拒否したのが理由」というセクハラ訴訟を起こしたものです。実際この2人は一時期恋愛関係があったようです。
結果から述べると陪審員はMorenoさんへ「Ostly氏に対して155万ドルの賠償金を支払え」との評決をしました。
何故こういう結果になったのでしょうか…
今回のケースで被告側は、関連するメールやテキストをディスカバリーする為にMorenoさんのコンピュータと携帯電話のデータ提出を要求しました。
原告側は対象となる電子データの範囲が広すぎると拒否をしましたが、裁判所は電子ディスカバリーの必要性を認め、コンピュータと携帯電話の提出を要請。その電子データを調査しましたが、コンピュータ内に存在する電子メールにはディスカバリーの対象となる期間のものは存在しませんでした。
また携帯電話は対象期間以降に発売された機種だったのです。つまり原告側から提出されたコンピュータや携帯電話には本訴訟に関連する電子データを何も発見する事が出来なかったのです。
原告側は「現在所有しているコンピュータと携帯電話の提出を求められたのでそれに従ったまで」と回答。被告側から「本訴訟に関連のある期間中に被告は何台のコンピュータと携帯電話を所有していて、それらはどこにあるのか?」と追求され、原告側はしぶしぶ対象期間中にMorenoさんが2台の携帯電話を所有していた事実を明らかにしたのです。
但しその2台の携帯電話は提出が出来ないとの事。1台は破棄されて残りの1台が「不明」との説明でした。裁判官が「どうして最初からこの2台の携帯電話が存在する事を明らかにしなかったのか?」という問いに対し、原告側は「弁護士・依頼者間の秘匿特権」が理由としました。
裁判官は原告側の供述は信用が出来ず、また電子ディスカバリーの証拠開示が不十分として、原告側に被告側の弁護士費用の$13,500の支払いを命じました。その後Ostly氏はMorenoさんを名誉毀損でカウンター訴訟し、最終的に陪審員はMorenoさんに155万ドルの損害賠償をせよという評決を下したのです。
今回のケースは原告側の弁護士が「電子ディスカバリーにおける証拠開示」を甘く見ていたようです。
米国での訴訟では、両サイドの弁護士が「Meet & Confer」という以下のようなプロセスを踏んで、電子ディスカバリーのルール決めをします。それに際して担当弁護士はクライエントの電子データのポリシーに関して十分調査しておく必要があり、企業側もそれに対応出来る体勢になっていなければなりません。
1) 電子データの保存及び破棄のポリシー
2) アクセス可能なデータと不可能なデータの把握
3) 訴訟ホールドとその通達への準備(証拠改ざん防止)
4) 関連電子データが紛失もしくは破棄されていないか
それ以外に訴訟に対して:
1) 訴訟予算の推定
2) 電子データコレクションの期間、種類、サイズを特定
3) 電子データコレクションの方法を決定
4) 重複文章の排除
5) 提出用のアウトプット方式
6) データが収集できなかった際のプラン
などの戦略的な訴訟対応をすべく電子ディスカバリーへの対応をしておく必要があるのです。
企業活動をしている以上、訴訟を避けることは出来ません。企業にとって電子ディスカバリーは大変重要なビジネスプロセスとなっています。

ソーシャルメディアとe法務ディスカバリー

4月1日はエープリルフール。アメリカでは大企業でもこの日だけはジョークが許されます。
GoogleはG-Mail用に「G-Motion」という新しいアプリの紹介をしていました。体を動かしてG-Mailを操作する機能でTry Gmail Motionをクリックすると「April Fools!」というポップアップが出て来るのです。
お堅いe法務ディスカバリー業界でこのエイプリルフールをやった会社もありました。
ディスカバリーソフトウェアの新機能としてソーシャルネットワーク機能を追加したと発表したのです。記事を読んでいくと最後にジョークだとわかる仕組みです。
Facebook、TwitterやLinkedInなどのソーシャルネットワークは、コミュニケーションツールとしてより広範囲に使われており、企業も人材募集やマーケティング活動などの目的に利用するようになっています。ニールセンの調査ではソーシャルネットワークの利用率は毎年3倍のペースで伸びていて、ネットを使う時間の10%はソーシャルネットワークのサイトに費やされているとの事です。
これらソーシャルネットワークはe法務ディスカバリーにどのような影響を及ぼすのでしょうか?
Facebookにポスティングされた写真が証拠とみなされたり、Twitterに企業の機密内容がコメントされたり、またLinkedInでの記事が相手方弁護士に有利になるように利用されたりする場合があるのです。
例としては、ある会社の従業員が作業中に怪我をし、仕事に復帰出来ず治療の為に3ヶ月間休職をするという保険申請をしたとします。ところが彼の友人がそれと同じ時期にビーチでバレーボールを楽しむその本人の写真をFacebookにポスティングしていた事が判明し、保険詐欺の証拠になったというものです。
弁護士がe法務ディスカバリーのプロセスを進めていく上で対象人物がどのようなソーシャルネットワークのアカウントを持っているのかを調査する事は非常に重要です。それは対象人物のバックグラウンドを知る上での有効な手段となるからです。
アメリカではe法務ディスカバリーのプロセスに於いてソーシャルネットワークは重要な情報源である事が認識されています。ソーシャルネットワークは訴訟やe法務ディスカバリーのプロセスでは無視出来ない存在になりつつあるのです。
但し訴訟に関する電子情報とする場合、会社のファイヤーウォールの外にあり、第三者が管理しているソーシャルネットワークに対してどのような証拠保全が出来るのか? またどうやって関連する情報を抽出するのか? というような問題も多く残っています。ソーシャルメディアに存在する電子情報はメールやワードのフォーマットではありませんし、データは様々なサイトに分散していて数多くの人達とシェアされています。
e法務ディスカバリーにとってソーシャルネットワークはまだ未開拓の地ですが、これらからの情報収集にも対応する必要に迫られることは必至です。
但し現状では、相手側弁護士に有利になるような情報が出ないように、企業側で社内ポリシーを作り従業員のソーシャルメディアへの情報管理をしっかりと教育するしか防御の方法は無いようです。

情報漏洩のコストは7%上昇-米国調査

2010年、アメリカの企業が情報保護違反(情報漏洩)で支払ったコストは昨年より7%上昇し、
1インシデントあたり720万ドルにのぼります。
Ponemon Institute LLCという情報セキュリティの研究所が、機密情報保護違反の対応コストに
関する調査レポートを発表しました。企業が顧客情報(クレジットカード情報やソーシャルキュリティ
番号等の機密情報)を漏洩・流出させた事件の件数と、その対処に掛かった金額に関する調査で、
継続的に実施、発表されているレポートです。
それによれば、2010年、機密情報保護違反にかかった費用は昨年(2009年)より7%上昇し、
1インシデントあたりで平均720万ドル(約6億円)、1レコードあたりでは214ドルでした。
特に今年の調査で目立つのは、悪意の又は犯罪性事件の増加です。それらは対応コストも
高額になる傾向があります。
2010年の漏洩事件全体の中で、悪意又は犯罪性の事件は、件数にして31%。1レコード
あたりのコストは平均318ドルでした。2009年に比べて件数で7%、金額では43%の増加です。
同研究所会長の Larry Ponemonによれば、米国の全企業のうち約85%が、1件以上の
機密保護違反(data breach)を経験しており、情報漏洩にかかる総合費用は毎年上昇を
続け、減少のきざしはありません。そのため、企業はますますネットワークや情報漏洩防止の
ための投資を増額しています。