e法務ディスカバリーのミスによる訴訟

米J-M Manufacturing社が内部告発を受け米連邦政府とカリフォルニア州からの調査を受けた際に、同社の弁護士事務所であるMcDermott Will & Emeryは当局に25万のドキュメントを提出しました。
ここまでは良くある話なのですが…
その後J-M Manufacturing社はMcDermott Will & Emery弁護士事務所に対して内部告発案件の際に提出された文章に余分なものが含まれていたとして同弁護士事務所を訴えたのです。J-Mによると本来提出すべきで無い3,900もの弁護士-クライアント間の秘匿特権文章がこの25万のドキュメントの中に含まれてしまっていたとの事。
e法務ディスカバリーのミスに関して案件を担当した弁護士事務所が訴訟されたというケースはこれが始めてのようです。
McDermott Will & Emery弁護士事務所は、Stratify 社(元Iron Mountain社傘下で現在はAutonomy社へ売却)にJ-M Manufacturing社のe法務ディスカバリーサービスを依頼していました。
e法務ディスカバリーは訴訟が増すと共にコスト削減の観点からサービスベンダーにアウトソースされて来ました。担当弁護士はベンダー側のe法務ディスカバリープロセス、使われているツールなどの状況を理解してその管理をきちんとする必要があるのですが、どのような管理方法が求められるのかは各弁護士事務所や担当弁護士に委ねられている状況です。
McDermott Will & Emery弁護士事務所はグローバルで1,000人以上の弁護士を持つ大手弁護士事務所です。J-M Manufacturing社の案件に関して経験の無い弁護士に担当させてしまったのでしょうか?それともサービスを提供したStratify社側の担当者が未熟だったのでしょうか?
e法務ディスカバリーツールの中にはコレクションした電子メールから「弁護士-クライアント間の秘匿特権文章」をドメイン名でフィルタリングをかけて抽出し、「Privileged (特権)」とタグを付ける事の出来る機能を持ったものもあり、こういったミスはツールの選定やドメインフィルタリング機能を理解する事でまた担当弁護士によるチェックがあれば避ける事が可能なのです。
今回のケースから:
1) e法務ディスカバリーサービスプロバイダーをどのような基準で選定するのか?
2) 弁護士事務所によるサービスプロバイダーの提供内容把握とその管理方法の確立
3) サービスプロバイダーによるe法務ディスカバリープロセスの品質管理体制
4) 上記の内容をクライアント側と透明化した情報シェア
5) クライアント側法務部のe法務ディスカバリープロセスの認知度向上
が非常に重要であると再認識しておく必要があるようです。

カルテルとe法務ディスカバリー

自動車部品の販売で価格カルテルを結んでいたとして、公正取引委員会が独禁法違反の疑いで大手部品メーカーの立ち入り検査したというニュースが今週ありました。
昨年2月には米連邦捜査局(FBI)が日系大手部品メーカーの米子会社3社に立ち入り。公正取引委員会はこれらメーカーに計120億円超の課徴金を課す方針を固めています。
日本企業が米国での訴訟に巻き込まれるケースは価格カルテルだけではなく、特許、知的財産、製造者責任や連邦海外腐敗行為防止法(FCPA:Foreign Corrupt Practices Act)などの分野に及んでいます。
米国の企業はFCPAなどの調査に対応してe法務ディスカバリーツールを社内に導入しています。これは50%以上のビジネスが海外で取引されている中で、企業としての透明性を維持する為にはFCPAに関する問題を早期にそして効果的に対処する事が最重要課題だからです。
米国のトップ10に入る大企業であるA社の例ですが、FCPAの調査が多いときで月に2件にもなりました。これに対処する為には既存の社内リソースだけではとてもやりきれない状況になってしまったのです。社内にe法務ディスカバリーのソリューションを持っていないA社はFCPAの調査期限内に対応する事が出来ず、またこれにより通常の業務にまで支障が出てくるまでになりました。複雑なコミュニケーションシステム、また情報の削除により「収賄」がどのように行われたのかを把握する事はe法務ディスカバリーツール無しでは困難を極めていました。
ある案件では7日間の期限内に150GBのデータを分析してFCPAのリクエストに答える必要がありました。ワード文章で1GBのデータ量というのはA4紙で100万ページにもなるのです。この件は現在進行中の1億5,000万ドルもの別の新規ビジネスともリンクしていたので、その対応次第で新規ビジネスのロスにもなりかねない状況でした。
A社はe法務ディスカバリーツール数社を弁護士とのチームで評価をし、最終的にC 社のe法務ディスカバリーツールを導入する決定をしました。C社のツールに決定した理由はそのパフォーマンスもさる事ながら、「e法務ディスカバリーを行う際にIT部門からのヘルプを必要とせずに使える」というものでした。e法務ディスカバリーを行い電子データを分析するのは社内の法務担当者と社外弁護士達で、彼等が簡単に使えるe法務ディスカバリーツールである事が最も重要だったのです。
また今回のケースは中国も関わっていました。英語があまり得意でない中国の弁護士でも簡単に使えるツールだったという事も魅力だったようです。
日本企業に関わる、最近の米国での国際価格カルテル事件では、2008年11月にアメリカ司法省は液晶パネルのカルテルでシャープに罰金115億円、2010年9月に冷却用コンプレッサーのカルテルではパナソニックに対して約41億円の罰金の支払を命じています。
国際価格カルテル事件になるとe法務ディスカバリーが必要とされるのは米国のみならず欧州、日本、アジアにも及ぶ可能性があります。海外展開をする日本企業にとってグローバルなスタンダードの観点からe法務ディスカバリーツールを選択し、訴訟リスクへの対応する事は共通の課題となっています。

データ収集へのアプローチ

訴訟やコンプライアンス対応で電子情報を収集するにあたり、消去されたり破損したデータはフォレンジックを行いデータの復元をする必要があります。そして企業内のストレージに保存されているフォレンジック的に健全なデータを収集するプロセスに入るわけですが、以前のブログではデータコレクションの概要と関連データを消去/改ざんしないように訴訟ホールドするというお話をしました。
訴訟ホールドはe法務ディスカバリーのプロセスの初期段階にあたるわけですが、その次のステップとして必要とされる電子データを収集するのが「コレクション」です。この段階でフォレンジック作業を含めてどれだけ関連する情報が効果的に収集出来るのかがe法務ディスカバリーの防御性、案件の全体像の把握及びコスト、つまりその戦略に影響してきます。今回はそのコレクションへのアプローチに関して触れたいと思います。
「コレクション」では関連するメタデータを収集するわけですが、収集漏れなどのない「防御性」を考慮して案件への関連データだけをターゲットとしたものでなければなりません。企業としてこの関連データを収集をする方法としては、1)自社で行う方法 2)電子ディスカバリソフトウェアを利用の方法が考えられます。
それぞれの収集方法にメリットとデメリットがありますので、実際の訴訟やコンプライアンスの内容により最適な方法を選択する必要があります。
1)自社でデータ収集
社内のIT担当者が関連する電子保存情報を探し、データを法務担当者に転送をするか特定のストレージに保存をします。この手法は最もコストがかからないので企業としては魅力的な手法なのですが、IT担当者に頼る事になるので3つのオプションの中では最もリスクが高いものとなります。れは消去されてしまったデータやネットワークに分散しているデータを「見逃す」可能性が高いからです。またワード文章を開いたりすると、メタデータの内容が変更されたり失われたりする可能性もあります。メタデータの内容変更は情報の改ざんとみなされる可能性がありますので、これは非常に気をつけなければいけません。
その為に社内担当者による人的なコレクションは、担当者がe法務ディスカバリーと法律を熟知していない限り出来るだけ避けたほうが良いというのが、アメリカでは一般的な考えになっています。
2)電子ディスカバリソフトウェア
これは社内のIT担当者が電子ディスカバリーソフトウェアを用いてメタデータが変更されないように収集する方法で、現在アメリカでは電子ディスカバリーソフトウェアを用いての収集が一般的になっています。課題としてはIT担当者が訴訟に対応してのデータ収集に関しての経験が薄い事でソフトウェアを使いきれていない事と、案件が無い時にこのソフトウェアがアイドル状態になり企業側として投資効率が見えにくい事です。また電子ディスカバリーソフトウェアを使うとどうしてもデータを広範囲で収集する傾向になってしまうので、後のプロセスであるレビューの段階で閲覧する資料が多くなってしまうという問題も避けられません。またIT担当者が他の仕事と兼任している場合にはこの収集プロセスや法務部門とのやりとりで専任的な作業になってしまいます。これは企業にとってリソースの負担になるため、そのコストも考慮しなければなりません。
3) e法務ディスカバリーサービスプロバイダー
これはフォレンジックの経験がありe法務ディスカバリーに熟知したプロバイダーに収集を依頼する方法です。消去されてしまったデータの復元をするフォレンジック及び社内のストレージにあるデータの収集を一本化する事が出来るので、案件の全体像が把握しやすくなり、ケース戦略が立てやすくなります。またエキスパートに依頼する事で社内リソースを使った際のリスクを低減する事が出来ます。データ収集はリモート方式と企業のファイヤーウォール内で行うことも可能です。これらサービスプロバイダーはe法務ディスカバリーの専門家なので訴訟やコンプライアンス対応でのリスクを考えると非常に良い選択となります。
4)コンビネーション
コストとリスクを考慮して社内で出来る事は社内で行い、専門分野はサービスプロバイダーに任せるコンビネーションのアプローチも多くなって来ています。この場合は社内のIT担当者、法務担当者、弁護士とサービスプロバイダーのコンサルタントが蜜にコミュニケーションを行いe法務ディスカバリーのプロセスを進めていく事になります。アメリカでこのコンビネーションが増えているのは、e法務ディスカバリーが企業側に運用されてから5年ほど経ちITや法務部門が経験を蓄積して来たのがその理由です。
e法務ディスカバリーでのデータ収集はフォレンジックとストレージのデータ収集の2つがセットになっていますので、訴訟内容により、リスクとコストを両方考慮した方法で行う必要があるでしょう。日本の現状を考えるとe法務ディスカバリーのニーズがある際はまず信頼できるサービスプロバイダーに相談するのがベストであると考えます。