リスクアセスメント

前回はe法務ディスカバリーは訴訟対応だけではなく、ビジネスプロセスの一部として利用されているとお話しました。そのプロセスとしては電子保存情報をネットワーク内から収集してレビューを行う事になりますが、アーカイブされた情報を取り出したり、OCRや、検索するためのインデックスをしたりするステップを事前に踏む事になります。
ただ最も重要なプロセスは収集したファイルがウィルスやマルウェアに侵されていないかをスキャンして確認しておく事です。それが確認された後でデータを隔離してログ管理を行わなければなりません。またマルウェアの除去に際しては技術的にオリジナルのファイルを改ざんしないかの確認が必要です。いずれにせよ収集した電子情報に対してはマルウェア対策をきちんと行う事が重要です。
e法務ディスカバリーは一般的に訴訟、コンプライアンスや内部調査で電子保存情報を収集しEDRMプロセスを行う事と考えられていますが、基本的には「リスクアセスメント」を行う事です。

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HPの戦略

HPが e法務ディスカバリーツールベンダーのAutonomyを買収した事は先週少し触れましたが、その背景を少し考えてみました。
HPがAutonomyの買収をするとリリースしたと同時にWebOSデバイスの販売中止とPCビジネスの切り離しを発表しました。ここからHPはコンシューマ向けからエンタープライズ向けにフォーカスをするという、IBMが行ったと同様の戦略が見えて来ます。
1) WebOSの中止はAPPLEとの競合には勝てないとの判断から。
2) PCビジネスの切り離しは利益が出ないため。
  IBMはPCビジネスを切り離し後にLenovoに売却。
3) Autonomyの買収にもあるように今後はソフトウェアとサービスにフォーカス。
HPはAutonomyをその売り上げの11倍の価格で買収しています。SymantecはClearwellを売り上げの8倍の価格で買収しているので、HPがいかにAutonomyを傘下にしたかったのかが見えて来ます。
8月19日のフィナンシャルタイムスの記事では、Autonomyをe法務ディスカバリーツールベンダーとはカテゴリーしておらず、「エンタープライズ情報プラットフォーム(Enterprise Information Management)」としています。
HPからのプレスリリースでもAutonomyは「Business Solution」とされていて「E-Discovery」という表現はされていません。
「Autonomy brings to HP higher value business solutions that will help customers manage the explosion of information. Together with Autonomy, we plan to reinvent how both unstructured and structured data is processed, analyzed, optimized, automated and protected. 」
アメリカ企業は効率を上げるソフトウェアツールとして営業部門はSales Forceを、人事部門はSuccess Factorを導入していますが、法務部門はe法務ディスカバリーをビジネスプロセスの効率化ツールと位置づけて導入している事が理解出来ます。
e法務ディスカバリーには基本的に2つのカテゴリーがあります。

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法務ITとそのトレンド

8月21-25日にテネシー州のナッシュビルでILTA-CONFERENCEが催されました。ILTAはInternational Legal Technology Associationの略でまさしく法務に関する技術を紹介しているコンベンションです。展示ベンダーは300社。これからも米国での法務IT及びe法務ディスカバリーの市場の大きさと法務関係者のITへの興味レベルを理解する事ができます。

毎年1月下旬にニューヨークで開催されるLegal Tech(http://www.legaltechshow.com/r5/cob_page.asp?category_id=71685&initial_file=cob_page-ltech.asp)も法務ITの重要なコンベンションです。

今年のILTAはe法務ディスカバリーベンダー2社が大型買収された後の開催となりました。

5月にはSymantecがClearwellを3億9000万ドルで、8月にはHPがAutonomyを103億ドルで買収しています。SymantecもHPもe法務ディスカバリーの市場のみをターゲットとした商品を展開しているわけではありません。彼らは買収を通じてe法務ディスカバリー市場に参入する意図があるわけですが、SymantecもHPも元々はエンタープライズ向けのソリューションをメインに提供しています。

そのため今後はe法務ディスカバリーサービスを提供しているLitigation Supportやサービスプロバイダーよりもエンタープライズ向けの製品にフォーカスしていくのではないかと言われています。

8月12日のWall Street Journalの記事にもあるように、米国企業は社外弁護士事務所を使わず社内弁護士を積極的に採用していく方向に動いているようです。SymantecとHPによるエンタープライズを中心としたイニシアチブの追い風もあり、米国ではe法務ディスカバリーのIn-House化(企業内で使われる事)が加速していくような気配です。

またこのILTAでは118社の弁護士事務所によるITに関するアンケート結果が発表されています。米国の弁護士事務所がITに関してどのようなアプローチをしているかとても興味深い内容となっています。

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米国e法務ディスカバリーのトレンド

Gibson Dunn法律事務所は毎年 MID-YEAR E-DISCOVERY UPDATE というレポートを発行しています。最新の米国のe法務ディスカバリートレンドを知るのには大変参考になるレポートです。
本レポートによると、2010年と比較して2011年では、e法務ディスカバリー不備に対する制裁が31から68と倍増しています。特に企業内電子データのリーガルホールドと証拠保全を怠ると制裁の対象になってしまいます。全ての電子データをトレースしてアップデートをカストディアンに行い、そのフォローアップして行く事は手間のかかる作業ですが、米国企業の法務部門は社内ポリシーをきちんと確立しておく必要があります。
制裁に関しては裁判所により意図的に電子データを隠匿している場合と、単なるミスで電子データを紛失してしまったケースとで区別している場合があるとの事です。ただし制裁がある事によってe法務ディスカバリーの全体のレベルが上がっている事も事実ですので、制裁の前例から今後のe法務ディスカバリーに対して「ベストプラクティス」の手法を取り入れて行く事が重要です。
傾向としては社外弁護士がクライエント企業に対してE-Discoveryの対処のためにより多くの時間を費やす結果になっているとしています。これはリーガルホールドが適切に行われているのか、また電子情報の「品質」が保たれているのか等を社外弁護士が企業側と密接になってモニタリングをしなければいけないという現状があるようです。つまりアメリカの弁護士はe法務ディスカバリーのプロセスを法務面だけではなくIT面からも理解して企業側にアドバイスをしている事になります。
Predictive Codingはレビュープロセスの前に収集した電子情報を優先順位付ける手法です。無関連電子情報を除外する事によりレビューコストを下げる事を目的としているので大変注目されています。ただ実際にこれが現場ではまだ十分活用されていないようで、本レポートによればPredictive Codingが実際のケースではまだ利用されていとしています。
また2011年になってe法務ディスカバリーがかなり成熟した時期に入ったとしています。ただしそのツールは完璧ではありません。防御性のある手法とツールベンダーの先進的なアイデアを組み合わせたベストプラクティス方式でe法務ディスカバリーをプロセスする重要性が指摘されています。
現在日本ではまだe法務ディスカバリーは本格的には行われていません。アメリカの事例を見るとツールの完成度が年々高くなって来ており、実際日本でそれが行われるようになった際には成熟したツールが応用出来る事になり、アメリカと比べて短期間にハイレベルのe法務ディスカバリーが構築されるではないかと推測されます。