企業のセーフティネット、e法務ディスカバリツール
今回はGreen v. Blitz U.S.A., (E.D. Tex. Mar. 1, 2011)のケースをご紹介します。製造物責任訴訟に於いて、被告(Blitz USA社)は原告(Greenさん)とすでに和解をしていたのですが、2年後の別の訴訟に於いてBlitz社側がe法務ディスカバリのホールドをきちんと行っていなかった事が判明し、裁判所から「露骨なディスカバリー侵害をしていた」として、すでに和解をしていたGreenさん側にも25万ドルの制裁金を支払うように命じたものです。
http://www.ediscoverylaw.com/uploads/file/Westlaw_Document_Green(1).doc
被告であるBlitz社はガソリン容器の製造メーカー。原告のGreenさんは、彼女の夫がBlitz社の製造したガソリン容器を取り扱い中に爆発事故で死亡したのは、被告の製造したガソリン容器に「火災防止機能」が無かったからだとした訴えましでた。最終的に被告側が原告側に和解金を支払うことで、この訴訟案件は2年前に終了していました。
ところが、最近になってBlitz社が起こされた別の製造物責任訴訟で、Blitz社が「関連する電子メールの削除をするように」と従業員に社内通達していた事が判明したのです。
裁判所は、Blitz社が訴訟申請があった際に適切な「Litigation Hold(訴訟ホールド)」をしてデータを保全する義務を怠った、とも判断しました。Blitz社が行った「Litigation Hold」とは、ある担当社員が関連すると思われる従業員達に「電子データを探してくれ」とリクエストしただけでした。IT部門に電子データの適正な抽出の方法などの相談もしていなかったので、その結果、社内電子データへの検索などがされませんでした。さらにBlitz社は、関連したメールを削除するように社員に命じてもいました。
裁判所はBlitz社が「意図的にe法務ディスカバリの義務を無視して、訴訟の鍵となる電子文章の提出を怠った」と判断しました。
実際、Blitz社内にはガソリン容器に「火災防止機能」を取り付けなければ危険だという認識があり、それに関する電子メールでのやりとりがされていたのです。
また裁判所は「e法務ディスカバリをきちんと行うという意思をもってキーワードサーチを行えば、関連電子メールの抽出は可能であった。しかしBlitz社の担当者は、IT部門へe法務ディスカバリをどう行うかの相談もしていなかった」との認識を示したのです。
Greenさんの担当弁護士はその事実を知り、和解から2年経ていたのですが、Blitz社に対するケースを再びオープンにするように裁判所に申請をしたものです(推測ですが、和解金をより多く得たいという目的があったのかもしれません)。
裁判所はすでに完了した訴訟を再度オープンする事は出来ないとして再審請求を却下しました。但し民事制裁金として25万ドルをGreenさんに支払うようにBlitz社に命じたのです。
このケースの特徴は、訴訟のため社内でのデータ収集をする際に、e法務ディスカバリのプロセスを全く知らない従業員が対応したことです。これは絶対に犯してはいけない間違いです。これはまるで、ロープの上を安全ネット無しに歩くと同じことです。
社内データを収集する時には、その収集の仕方、キーワードなどを透明化し、e法務ディスカバリツールを用いてそのプロセスを「防御」出来るようにしておかなければなりません。短期的な視点から、コストのかからない社内リソースのみで対応した結果、長期的には制裁金が課せられてしまった訳です。
e法務ディスカバリに「100%完璧」はありません。但しe法務ディスカバリを知らない従業員にデータ収集を任せる事ほど高いリスクはありません。
企業にとって、e法務ディスカバリツールは「安全ネット」とも言えるかもしれません。