電子情報の保全の重要性

何重もの災害対策が講じられていたはずの東京電力の福島原発による放射能漏れ事故は近隣、日本、アジア諸国のみならず世界的な規模で影響を与えています。事態はまだ収拾していない状況ですが将来的に東京電力には日本国内からだけでなく海外からも多大な補償訴訟が待ち受けていると推測されます。
その際には東京電力の安全基準、予備対策、過去の事故例とその対策、社内レポート、改善内容、現場間でのメール、経営陣のメールなどの電子保存情報の収集及びレビューが焦点となるものと考えられます。また東京電力だけではなく、関連企業、サプライヤーや下請企業との電子メールなども含まれると想定されますので、テラバイトレベルの情報量の中から関連する電子保存情報を収集する事になるかもしれません。
昨年米国ルイジアナ州のメキシコ湾沖合いで操業していたBP社の石油掘削施設が爆発し、海底油田から大量の原油がメキシコ湾全体に流出した事故がありました。流出した重油による近隣の環境破壊で特に観光業や漁業は多大な経済的な被害を受け、これら影響を受けた企業などがBP社を訴訟するに至っています。
BP社への訴訟は現在も進行中ですが、それが今後どのように展開をしていくかはBP社がこの流出事故に関してどれだけの電子保存データ量を所有しているかという事と、そのデータがどう適切に処理されるかという事に依存しています。もしBP社がこのe法務ディスカバリのプロセスで「過ちを犯す」事になってしまうとすれば、それこそBP社は石油掘削施設の爆発によるダメージだけではなく、訴訟でも大きなダメージを受け自社が「e災害」に遭遇する事になってしまいます。
BPへの訴訟ではBPは社内の数万もしくは数百万もの電子情報の記録のレビューが必要になるでしょう。但し原告に要求された電子保存情報の全てに対応する必要はあるのでしょうか?
e法務ディスカバリの先進国であるアメリカでは連邦規則Rule 26(b)(2)(C)に、「当事者は電子保存情報の要求に対して訴訟の本来の価値を超えるような時間を費やす必要な無い」と規定されています。
原告は多大な被害から「何が欲しい」という方向に走りがちです。上記の規定にもあるように、被告に要求した全ての電子保存情報を保全して提出する事を裁判所が全て認めてくれるとは限りません。原告も「何が訴訟の為に必要か」という事を現実的に認識しておく必要があります。
多大な被害という背景があっても「合理的な範囲」でe法務ディスカバリは行われる必要があるのです。
但し環境を破壊してしまった側BP側は電子保存情報の要求に「漏れが無いように」対処しておかなければならず、普段から社内での電子保存データの管理とe法務ディスカバリのプロセスを徹底しておかなければなりません。
道で自動車を走らせる場合は「対向車が自分のレーンに入ってこない」という前提の元で皆さんは安全運転をされていると思います。但し事故は起きてしまうのです。日本企業も国際展開をしている状は「事故」が起きた後に対処をするのではなく、ビジネスプロセスの一部としてe法務ディスカバリに対し事前に準備をしておかなければなりません。
e法務ディスカバリでの第一のステップは、関連電子情報を保全する事で、これをリーガルホールド(Legal Hold)または訴訟ホールド(リティゲーションホールド/Litigation Hold)といいます。企業が訴訟に関わる場合は関連電子情報の消去と改ざんを自ら防ぐ義務があります。米国ではリーガルホールドが適切にされずにデータの消去がされて100万ドルもの制裁金を課せられたケースもあります。日本企業も米国でのe法務ディスカバリのプロセスを熟知していなければなりません。
リーガルホールドの最初のプロセスは、関連する全ての社員に対して情報保全をするようメールを送りそれを徹底させなければいけません。通達を受けた社員がそのメールの受信を「確認」して、その「内容を理解し同意した」という事まで把握し管理をしておく必要があります。
エクセルでリーガルホールドの管理をしている企業もあるようですが、これは間違いも誘発する大変原始的な手法です。優れたe法務ディスカバリツールではリーガルホールド・モジュールが組み込まれており、そこからメールテンプレートの作成、メールの送信、受信確認及び内容同意まで全て管理出来るようになっています。
次回はこのリーガルホールドに関して少し詳しくお話したいと思います。