電子情報・ネットワーク法研究会公開勉強会

11月8日に東京の弁護士会館で弁護士業務に役立つ「インサイダー取引、情報漏洩の事前・事後対策」というタイトルで講座を開催しました。

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題材としては、「インサイダー取引の事前・事後対策」と「アップル、サムスン電子における知的財産訴訟における証拠開示」という2つのテーマで話をしました。

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インサイダー取引に関する話は、こちらで紹介しています。
(参考:http://blog.spectorpro.jp/2012/09/nhkbiz.html)

もう一つのテーマ「アップル、サムスン電子における知的財産訴訟における証拠開示」というテーマで話した内容は、2014年の4月にスマホやタブレットの特許を侵害しているとして、アップルがサムスンを米国で提訴します。これと同時に今度は、サムスンがアップルを日本、米国、韓国、ドイツで提訴して、特許紛争が始まりました。

2011年の動き.PNG
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こちらは、2012年になってからの主な動きですが、今年の8月に、カリフォルニアの地方裁判所で陪審員による評決でアップルが持つ管理をサムスンが侵害したと認められて、10億5000万ドルという巨額の賠償金の支払い命令が出ました。

サムスンが提出した証拠.PNG

こちらは、サムスンが提出した裁判用の証拠データです。アップルのデザイナーがSONYのデザイナーがボタンなどの過剰な装飾がない、手にフィットする過度に丸みが付いた携帯電子機器のデザインの話をしていたという情報を得て、アップルの工業デザイナーが作成したモックアップデザインです。CAD図面には、SONYのロゴまで入っています。デザイナーによるとこのデザインは、iPhoneプロジェクトのコースを変え、現在のiPhoneにつながったとのことです。つまり、サムスンの主張は、サムスンがアップルのデザインを真似したというが、アップルもSONYのデザインを参考にしたのではないかということです。

アップルた提出した証拠.PNG

こちらは、アップルが提出した証拠データですが、iPhoneのパッケージデザインをギャラクシーのパッケージが真似しているという証拠データです。

【アップルとサムスンの証拠保全義務違反】
アップルとサムスンの訴訟では、証拠データの保全義務違反というのも指摘されました。サムスンは、全てのeメールが2週間後に自動削除されるシステムを導入していましたが、アップルは、侵害通知をサムソンに行った2010年8月時点で削除を停止して、証拠保全を行なわなかったのは、証拠隠滅を図ったもので、証拠保全義務違反に当たるとして、制裁を求めました。これに対して、裁判所も一度は、この訴えを認めましたが、これ対して、サムスンは、アップルも証拠保全義務を果たしていないと主張し、裁判所もアップルが自社に不利な証拠を破棄した可能性があると認めて、双方の主張が無効となりました。

【アップルとサムスン評決、グーグルの意向示すメールが決め手】
陪審員が10億ドル余りの巨額の損害を認定するときに判断材料としたのがグーグルからサムスンの幹部に送られていた電子メールだと報道されています。グーグルの幹部がサムスンに対して、アップルのiPhoneにあまりにも似ているのでデザインを変えた方がいいというメールが証拠として提示されて、このメールにより、サムスン側もギャラクシーがiPhoneに似ているということを認識していたという証拠となったとのことです。このように電子データが評決に大きな影響を与えています。

これは、米国での訴訟なので、eディスカバリの対象となります。eディスカバリとは、米欧の民事訴訟や行政調査、審理の当事者に向けた電子情報証拠開示のための手続きルールです。米国では、2006年にFRCP(連邦民事訴訟規則)で厳密な運用が明文化され、このルールが守れない場合には、制裁金、および訴訟においてのペナルティが課せられるようになりました。訴訟や行政調査の当時者は、証拠開示の要求に答える義務を負います。アップル、サムスンの訴訟に関して、様々な証拠データが法廷に提出されたというニュースが流れていましたが、ここで開示されたデータがeディスカバリにより開示が義務付けられたデータを含んでいます。

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実際のeディスカバリの証拠開示は、EDRMという電子情報開示参考モデルに従って進めていきます。企業にとっては、電子データの証拠開示をどういう風に進めるか、どういうツールを使ってどのように調査するかが思案のしどころになると思います。