HPの戦略

HPが e法務ディスカバリーツールベンダーのAutonomyを買収した事は先週少し触れましたが、その背景を少し考えてみました。
HPがAutonomyの買収をするとリリースしたと同時にWebOSデバイスの販売中止とPCビジネスの切り離しを発表しました。ここからHPはコンシューマ向けからエンタープライズ向けにフォーカスをするという、IBMが行ったと同様の戦略が見えて来ます。
1) WebOSの中止はAPPLEとの競合には勝てないとの判断から。
2) PCビジネスの切り離しは利益が出ないため。
  IBMはPCビジネスを切り離し後にLenovoに売却。
3) Autonomyの買収にもあるように今後はソフトウェアとサービスにフォーカス。
HPはAutonomyをその売り上げの11倍の価格で買収しています。SymantecはClearwellを売り上げの8倍の価格で買収しているので、HPがいかにAutonomyを傘下にしたかったのかが見えて来ます。
8月19日のフィナンシャルタイムスの記事では、Autonomyをe法務ディスカバリーツールベンダーとはカテゴリーしておらず、「エンタープライズ情報プラットフォーム(Enterprise Information Management)」としています。
HPからのプレスリリースでもAutonomyは「Business Solution」とされていて「E-Discovery」という表現はされていません。
「Autonomy brings to HP higher value business solutions that will help customers manage the explosion of information. Together with Autonomy, we plan to reinvent how both unstructured and structured data is processed, analyzed, optimized, automated and protected. 」
アメリカ企業は効率を上げるソフトウェアツールとして営業部門はSales Forceを、人事部門はSuccess Factorを導入していますが、法務部門はe法務ディスカバリーをビジネスプロセスの効率化ツールと位置づけて導入している事が理解出来ます。
e法務ディスカバリーには基本的に2つのカテゴリーがあります。

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ITと弁護士の生産性

リーガルサーチのLexis やWestlawが出現した時にアメリカの弁護士達は「コンピュータでの検索など使い物にならない」と言っていたそうです。現在ではコミュニケーションが電子化され、訴訟の際には何テラバイトもの電子保存データを取り扱う事が必要となり弁護士もITの力を使わずに効率を上げることは不可能な状況になっています。

ITの変革が弁護士の活動に影響を及ぼしている事は確実で、特にiPadの出現はアメリカの弁護士の活動に大きなインパクトを与えているようです。四角い革カバンに紙の書類を詰め込んで裁判所に向かう事はもう昔のシーンとなっています。

iPadの一般的なオフィスアプリケーションだけでなく、生産性を上げるのに適した新しいアプリケーションにどのようなものがあるかの情報を常に入手しておく事が重要です。アメリカでは弁護士が自分のプラクティスに適したアプリケーションを効果的に利用して作業効率を上げる事が一般的になっています。

それを反映してアメリカでは弁護士が活用出来るようなiPadのアプリケーションがいくつかありその例をご紹介します。

  1. 1) Courtdays Pro
    (http://itunes.apple.com/us/app/court-days-pro-rules-based/id419708480?mt=8)
    裁判に関わるスケジュールや期限などの管理アプリ。
  2. 2) Read It Later
    (http://readitlaterlist.com)
    ウェブページを保存してオフラインで読めるようにするアプリ。
  3. 3) Westlaw Next
    iPadのタッチスクリーンに対応したドキュメントノートソフトウェア。
  4. 4) Fastcase
    リーガルサーチアプリ。
  5. 5) Litigator
    訴訟弁護士向けの連邦/地域ルールなどのリファレンスアプリ。
  6. 6) IJuror
    (http://itunes.apple.com/us/app/ijuror/id372486285?mt=8)
    陪審員の席順や各陪審員の情報が入力出来るアプリ。
  7. 7) Audiotorium
    ノート及び音声録音のアプリ。
  8. 8) TrialPad
    裁判でのプレゼンテーションアプリ。

American Bar Associationのウェブサイトでも弁護士の仕事効率を上げるためのiPhoneやiPadアプリケーションを紹介しています。(http://www.americanbar.org/publications/youraba/201105article05.html)これらのアプリの数からもアメリカの弁護士を取り巻くIT環境を理解する事が出来ます。当然セキュリティの心配もありますが、Googleの元CEOであるEric Schmidt氏はMACは最も安全なPCであると述べています。タブレットPCが不発に終わったのとは逆にiPadの爆発的な人気を受けて6,000ものアプリが存在します。そしてより機能的で情報を簡単にコントロール出来るようになりました。iPadはデスクトップやノートブックPCと異なり情報を「作る」デバイスではありません。あくまで情報を「消費」するデバイスです。既存のPCと並行してiPadを効率的に使うというのが今後の流れのようです。

SNSへの対応

世界中に5億人を超えるユーザー数を持つ世界最大のSNSサイトであるFacebook。日本でも300万人以上のユーザーがいるとの事です。
今ではFacebookやTwitterなどのSNSが様々な情報発信源になっているわけですが、これだけユーザー数が増えてその情報量が膨大になると、訴訟に関わる弁護士や事件に対応する司法にとってSNSは無視出来ない存在になっています。
犯罪容疑者のSNSアカウントから事件の糸口となる証拠収集が可能かもしれませんし、不倫が原因で離婚訴訟に至った場合などは、当事者の人間関係がより詳しく把握できるかもしれません。その反面、陪審員制度を持つアメリカでは公判中に陪審員がその内容をSNSにリークしてしまわないかという懸念もあります。
SNSでは情報が不特定多数に瞬時に広まってしまいます。6月にドイツで16歳の女の子がFacebookの設定を間違え誕生日の招待状を誰にも見られるようにオープンにしてしまい、誕生日当日に約1,500人が自宅に詰めかけたという騒ぎがありました。日本でもホテル従業員やスポーツ用品メーカー社員が顧客の情報をTweetして大きな問題となりました。
例えば安全弁の不良に関する訴訟を起されているA社の社員が「私この安全弁の設計をしています。5倍の耐圧設計をしていて絶対安全なので使い続けても問題ありません。」などとTweetしたらそれは大問題になるでしょう。
SNSは企業にとっては悩ましい問題です。米国のトップ100社は訴訟対応の為にe法務ディスカバリーの体制を整えていますが、実際訴訟が起こった際には関係している社員のPC内データだけでなく、SNSサイト、ブログやWiKiなどへの写真、ビデオや書き込みも収集しなければなりません。
PC端末や社内ネットワークのデータ収集はツールを使って可能ですが、SNSからの情報を収集する際には手間が余計にかかる事が想定されます。SNSプロバイダーや携帯サービスプロバイダーなどホスティングされた環境下でのデータ収集も含めたe法務ディスカバリー対応は事前にシュミレーションをして準備してお必要があります。 
また企業としてSNSに対してのポリシーをきちんと確立しておく事も必要でしょう。
1:長いものには巻かれろ
「SNSを使用禁止」にする事は難題です。会社のPCからそのドメインへのアクセスを禁止しても、昼休みにスマートフォンからアクセスすることは禁止できません。SNS禁止ではなく、代わりに社員に対してSNSへのポリシーを策定するべきでしょう。例えば社員がSNSを使って新商品のプロモーションをする時に、その商品が製造者責任訴訟の対象になってしまった場合にそのメッセージが「証拠」として利用されてしまう場合もあります。法務とのコミュニケーションを行い「意見」と「事実」を明確にしてそのポリシーに準じたメッセージにする必要があるでしょう。
2:SNSの有効利用
企業としてSNSを積極的に使い、法務の観点から問題の無いメッセージを発信し、社員に対して「良いメッセージの例」を肌で理解してもらう事も効果的かもしれません。
3:SNSへのディスカバリー対応
社員のポスティングしたSNSが訴訟の対象となってしまった場合には、e法務ディスカバリーへの対応としてSNSから情報を収集、検査そして精査をしなくてはなりません。その場合対象となる社員は個人にはパスワードの提出が必要とするなどプライバシーに関わる問題になります。もしこの社員が協力を拒否したら…その対応で時間がよりかかってしまう事になります。
4:モニタリングとポリシーの実行
定期的にFacebookなどのSNSサイトを訪問し、社員がどういったポスティングしているのかモニタリングをする必要もあるでしょう。もしポリシーに反するポスティングがあればそれを記録し、社員をきちんと指導して会社側がSNSのポリシーをきちんと実行しているという事を明確にしておく必要があります。
「機密情報の外部リーク」という問題は昔からありましたがSNSという誰にでもアクセス出来る新しいツールの存在がそのモラルも変えてしまったようです。企業としてSNSによる情報流出を防ぐ為にはそのメリットを良く理解し積極的に使い、社員とのコミュニケーションを透明化して企業資産を守る事が重要と考えます。

e法務ディスカバリーのミスによる訴訟

米J-M Manufacturing社が内部告発を受け米連邦政府とカリフォルニア州からの調査を受けた際に、同社の弁護士事務所であるMcDermott Will & Emeryは当局に25万のドキュメントを提出しました。
ここまでは良くある話なのですが…
その後J-M Manufacturing社はMcDermott Will & Emery弁護士事務所に対して内部告発案件の際に提出された文章に余分なものが含まれていたとして同弁護士事務所を訴えたのです。J-Mによると本来提出すべきで無い3,900もの弁護士-クライアント間の秘匿特権文章がこの25万のドキュメントの中に含まれてしまっていたとの事。
e法務ディスカバリーのミスに関して案件を担当した弁護士事務所が訴訟されたというケースはこれが始めてのようです。
McDermott Will & Emery弁護士事務所は、Stratify 社(元Iron Mountain社傘下で現在はAutonomy社へ売却)にJ-M Manufacturing社のe法務ディスカバリーサービスを依頼していました。
e法務ディスカバリーは訴訟が増すと共にコスト削減の観点からサービスベンダーにアウトソースされて来ました。担当弁護士はベンダー側のe法務ディスカバリープロセス、使われているツールなどの状況を理解してその管理をきちんとする必要があるのですが、どのような管理方法が求められるのかは各弁護士事務所や担当弁護士に委ねられている状況です。
McDermott Will & Emery弁護士事務所はグローバルで1,000人以上の弁護士を持つ大手弁護士事務所です。J-M Manufacturing社の案件に関して経験の無い弁護士に担当させてしまったのでしょうか?それともサービスを提供したStratify社側の担当者が未熟だったのでしょうか?
e法務ディスカバリーツールの中にはコレクションした電子メールから「弁護士-クライアント間の秘匿特権文章」をドメイン名でフィルタリングをかけて抽出し、「Privileged (特権)」とタグを付ける事の出来る機能を持ったものもあり、こういったミスはツールの選定やドメインフィルタリング機能を理解する事でまた担当弁護士によるチェックがあれば避ける事が可能なのです。
今回のケースから:
1) e法務ディスカバリーサービスプロバイダーをどのような基準で選定するのか?
2) 弁護士事務所によるサービスプロバイダーの提供内容把握とその管理方法の確立
3) サービスプロバイダーによるe法務ディスカバリープロセスの品質管理体制
4) 上記の内容をクライアント側と透明化した情報シェア
5) クライアント側法務部のe法務ディスカバリープロセスの認知度向上
が非常に重要であると再認識しておく必要があるようです。

カルテルとe法務ディスカバリー

自動車部品の販売で価格カルテルを結んでいたとして、公正取引委員会が独禁法違反の疑いで大手部品メーカーの立ち入り検査したというニュースが今週ありました。
昨年2月には米連邦捜査局(FBI)が日系大手部品メーカーの米子会社3社に立ち入り。公正取引委員会はこれらメーカーに計120億円超の課徴金を課す方針を固めています。
日本企業が米国での訴訟に巻き込まれるケースは価格カルテルだけではなく、特許、知的財産、製造者責任や連邦海外腐敗行為防止法(FCPA:Foreign Corrupt Practices Act)などの分野に及んでいます。
米国の企業はFCPAなどの調査に対応してe法務ディスカバリーツールを社内に導入しています。これは50%以上のビジネスが海外で取引されている中で、企業としての透明性を維持する為にはFCPAに関する問題を早期にそして効果的に対処する事が最重要課題だからです。
米国のトップ10に入る大企業であるA社の例ですが、FCPAの調査が多いときで月に2件にもなりました。これに対処する為には既存の社内リソースだけではとてもやりきれない状況になってしまったのです。社内にe法務ディスカバリーのソリューションを持っていないA社はFCPAの調査期限内に対応する事が出来ず、またこれにより通常の業務にまで支障が出てくるまでになりました。複雑なコミュニケーションシステム、また情報の削除により「収賄」がどのように行われたのかを把握する事はe法務ディスカバリーツール無しでは困難を極めていました。
ある案件では7日間の期限内に150GBのデータを分析してFCPAのリクエストに答える必要がありました。ワード文章で1GBのデータ量というのはA4紙で100万ページにもなるのです。この件は現在進行中の1億5,000万ドルもの別の新規ビジネスともリンクしていたので、その対応次第で新規ビジネスのロスにもなりかねない状況でした。
A社はe法務ディスカバリーツール数社を弁護士とのチームで評価をし、最終的にC 社のe法務ディスカバリーツールを導入する決定をしました。C社のツールに決定した理由はそのパフォーマンスもさる事ながら、「e法務ディスカバリーを行う際にIT部門からのヘルプを必要とせずに使える」というものでした。e法務ディスカバリーを行い電子データを分析するのは社内の法務担当者と社外弁護士達で、彼等が簡単に使えるe法務ディスカバリーツールである事が最も重要だったのです。
また今回のケースは中国も関わっていました。英語があまり得意でない中国の弁護士でも簡単に使えるツールだったという事も魅力だったようです。
日本企業に関わる、最近の米国での国際価格カルテル事件では、2008年11月にアメリカ司法省は液晶パネルのカルテルでシャープに罰金115億円、2010年9月に冷却用コンプレッサーのカルテルではパナソニックに対して約41億円の罰金の支払を命じています。
国際価格カルテル事件になるとe法務ディスカバリーが必要とされるのは米国のみならず欧州、日本、アジアにも及ぶ可能性があります。海外展開をする日本企業にとってグローバルなスタンダードの観点からe法務ディスカバリーツールを選択し、訴訟リスクへの対応する事は共通の課題となっています。

データ収集へのアプローチ

訴訟やコンプライアンス対応で電子情報を収集するにあたり、消去されたり破損したデータはフォレンジックを行いデータの復元をする必要があります。そして企業内のストレージに保存されているフォレンジック的に健全なデータを収集するプロセスに入るわけですが、以前のブログではデータコレクションの概要と関連データを消去/改ざんしないように訴訟ホールドするというお話をしました。
訴訟ホールドはe法務ディスカバリーのプロセスの初期段階にあたるわけですが、その次のステップとして必要とされる電子データを収集するのが「コレクション」です。この段階でフォレンジック作業を含めてどれだけ関連する情報が効果的に収集出来るのかがe法務ディスカバリーの防御性、案件の全体像の把握及びコスト、つまりその戦略に影響してきます。今回はそのコレクションへのアプローチに関して触れたいと思います。
「コレクション」では関連するメタデータを収集するわけですが、収集漏れなどのない「防御性」を考慮して案件への関連データだけをターゲットとしたものでなければなりません。企業としてこの関連データを収集をする方法としては、1)自社で行う方法 2)電子ディスカバリソフトウェアを利用の方法が考えられます。
それぞれの収集方法にメリットとデメリットがありますので、実際の訴訟やコンプライアンスの内容により最適な方法を選択する必要があります。
1)自社でデータ収集
社内のIT担当者が関連する電子保存情報を探し、データを法務担当者に転送をするか特定のストレージに保存をします。この手法は最もコストがかからないので企業としては魅力的な手法なのですが、IT担当者に頼る事になるので3つのオプションの中では最もリスクが高いものとなります。れは消去されてしまったデータやネットワークに分散しているデータを「見逃す」可能性が高いからです。またワード文章を開いたりすると、メタデータの内容が変更されたり失われたりする可能性もあります。メタデータの内容変更は情報の改ざんとみなされる可能性がありますので、これは非常に気をつけなければいけません。
その為に社内担当者による人的なコレクションは、担当者がe法務ディスカバリーと法律を熟知していない限り出来るだけ避けたほうが良いというのが、アメリカでは一般的な考えになっています。
2)電子ディスカバリソフトウェア
これは社内のIT担当者が電子ディスカバリーソフトウェアを用いてメタデータが変更されないように収集する方法で、現在アメリカでは電子ディスカバリーソフトウェアを用いての収集が一般的になっています。課題としてはIT担当者が訴訟に対応してのデータ収集に関しての経験が薄い事でソフトウェアを使いきれていない事と、案件が無い時にこのソフトウェアがアイドル状態になり企業側として投資効率が見えにくい事です。また電子ディスカバリーソフトウェアを使うとどうしてもデータを広範囲で収集する傾向になってしまうので、後のプロセスであるレビューの段階で閲覧する資料が多くなってしまうという問題も避けられません。またIT担当者が他の仕事と兼任している場合にはこの収集プロセスや法務部門とのやりとりで専任的な作業になってしまいます。これは企業にとってリソースの負担になるため、そのコストも考慮しなければなりません。
3) e法務ディスカバリーサービスプロバイダー
これはフォレンジックの経験がありe法務ディスカバリーに熟知したプロバイダーに収集を依頼する方法です。消去されてしまったデータの復元をするフォレンジック及び社内のストレージにあるデータの収集を一本化する事が出来るので、案件の全体像が把握しやすくなり、ケース戦略が立てやすくなります。またエキスパートに依頼する事で社内リソースを使った際のリスクを低減する事が出来ます。データ収集はリモート方式と企業のファイヤーウォール内で行うことも可能です。これらサービスプロバイダーはe法務ディスカバリーの専門家なので訴訟やコンプライアンス対応でのリスクを考えると非常に良い選択となります。
4)コンビネーション
コストとリスクを考慮して社内で出来る事は社内で行い、専門分野はサービスプロバイダーに任せるコンビネーションのアプローチも多くなって来ています。この場合は社内のIT担当者、法務担当者、弁護士とサービスプロバイダーのコンサルタントが蜜にコミュニケーションを行いe法務ディスカバリーのプロセスを進めていく事になります。アメリカでこのコンビネーションが増えているのは、e法務ディスカバリーが企業側に運用されてから5年ほど経ちITや法務部門が経験を蓄積して来たのがその理由です。
e法務ディスカバリーでのデータ収集はフォレンジックとストレージのデータ収集の2つがセットになっていますので、訴訟内容により、リスクとコストを両方考慮した方法で行う必要があるでしょう。日本の現状を考えるとe法務ディスカバリーのニーズがある際はまず信頼できるサービスプロバイダーに相談するのがベストであると考えます。

告発サイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」の概要

内部告発サイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」の創設者ジュリアン・アサンジ(Julian Assange)氏がロンドンで別件逮捕された。
ウィキリークスの概要とこれまでの活動について簡単にまとめておく。
詳細な情報は他にも多数上がっているのでそれらを参照していただきたい。
ウィキリークス(Wikileaks)とは、団体名でありサイト名でもある。政府や企業などの機密情報を、主に内部告発を情報源として収集、インターネットを通じて世界に公開している。
「サラ・ペイリンのヤフーアカウント情報流出」事件で、同サイトの知名度が飛躍的にあがった。
2008年9月、アメリカ合衆国大統領選挙期間中に共和党の副大統領候補として出馬中のサラ・ペイリン(Sarah Palin)の個人的なYahoo!メールアカウントがハックされ、掲示された件である。
そして世界に大きく衝撃を与えたのは「2007年7月12日の米軍による民間人攻撃の動画」だ。2010年4月に公開された空撮映像は、CNNやNYT、英BBCなど欧米主要メディアでも繰り返し報道された。
この銃撃ではロイター記者2名が死亡している。ロイターは民間人を武装兵と誤認したのではないかと状況調査や各種記録の提出を要請したが、米軍は「戦闘中の出来事」であるとし拒否していたものであった。
その他、アフガン紛争関連の機密情報7万5000件以上(2010年7月)やイラク戦争の米国機密文書40万件以上(同年10月)などが次々に公開された。
11月28日には、1966年12月28日からの25万件以上にのぼる米国外交公電が逐次公開されはじめ、世界中の注目が集まっている状況である。
なぜ、ウィキリークスでは大量の機密情報を入手、公開できるのか。
その情報源は、ほとんどが内部告発である。
告発者は危険にさらされる例が大半であることから、告発者を守るために、軍レベルの暗号技術を駆使。さらにサーバーの設置場所も未公開、ログ(記録)も取得せず、告発者の匿名性を守るために強固なセキュリティ対策を施しているという。
ウィキリークスの活動の是非以前に、これほど大量に機密情報が取得できてしまったという事実が米国でも衝撃を持って受け止められている。本来は企業よりも厳重なセキュリティが施されてあるべき軍・機密組織の情報管理体制に、疑問が投げかけられている形だ。
ウィキリークスは、創設者の逮捕とは関係なく活動を継続すると表明しているだけでなく、同サイトのミラーサイトが続々と誕生している。
ネット上でいったん公開された情報を規制することは不可能に近いことの好例といえよう。

シンガポールのEディスカバリー事情

10月1日より、シンガポールで電子データの証拠開示に関する新しい司法条例が導入された。

これは、8月に同国最高裁判所より発表されていたもので、
(http://app.supremecourt.gov.sg/data/doc/ManagePage/temp/4nuc3c45i15f0f45uffl1b55/practice_direction_no.3_of_2009.pdf)法的審理における、電子的に保存されたデータのディスカバリ(証拠開示)と証拠検分の手順を定めている。

シンガポールは法的文書の電子化が進んでいることで知られていて、既にEディスカバリーの条例も発表されている。

アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの欧米だけではなく、今後はアジアでも広くeDiscoveryの波が広がっていくことは不可避である。

日本企業や自治体なども、いざというときに手痛い打撃を受けないためにも、eDiscoveryの対策を真剣に講じるときである。

トゥレ・ITU事務総局長、サイバー犯罪防止へ法整備、700社に技術協力要請

【ジュネーブ=市村孝二巳】
世界の情報通信行政を統括する国際電気通信連合(ITU)はインターネットに絡んだ「サイバー犯罪」防止に向け各国共通の法制度作りに着手した。国家の情報中枢を攻撃するサイバーテロや個人情報の漏洩(ろうえい)を取り締まる法制度案を二〇〇九年までに策定し、ITU加盟の百九十一カ国に採用を働きかける。国境を越える犯罪に備える狙いで、世界の有力情報通信企業など約七百社には安全確保の技術標準づくりなど技術面での支援を要請する。

ITUトップのハマドゥーン・トゥレ事務総局長が日本経済新聞との会見で明らかにした。トゥレ氏は「国境を越えて広がるサイバー犯罪の被害を食い止め、ネットワークや情報を守るには世界共通の法的枠組みがぜひとも必要だ」と訴えた。

ITUは二十六日に開く専門家会合で「法制度」「国際協力」などサイバー犯罪対策五本柱に沿って対策を議論し、十一月の理事会(加盟国の代表四十六カ国で構成)までに報告書をまとめる。理事会は同報告書を軸に具体的な対策案の検討をさらに進め、一年後に各国に提案する。

まずモデルとなる法制度の策定など緩やかな国際協力から始める考え。各国に国内法整備を義務づけるため国際条約を制定するかどうかは「加盟国の判断に委ねる」とトゥレ氏は述べた。条約交渉には時間がかかり、変化の速いネットの世界では対策が後手に回る恐れがあるためだ。

対策を想定するサイバー犯罪は幅広い。サイバーテロやハッカー行為、迷惑メール(スパム)やコンピューターウイルスのまん延、児童ポルノや犯罪を誘発する情報の流通などをいかに防ぎ、取り締まるかが大きな課題となる。日本で頻発するネットを起点とした殺人や自殺などの対策も検討対象に入る見通し。

トゥレ氏は「百四十五カ国にサイバー犯罪を監視する独立した機関があるが、犯罪は最も対策が弱いところで起きる」と指摘。〇〇年に「ILOVEYOU」ウイルスがフィリピンからばらまかれたように、対策の立ち遅れた途上国こそ規制を急ぐ必要性を強調。サイバー犯罪に対する罰則がない国に法整備を促し、取り締まりのための技術支援や人材育成を進める。

さらにITUは専門家会合に参加している米AT&T、インテル、マイクロソフト、ベリサインなど世界の有力情報通信企業約七百社にも協力を呼びかける。ウイルス感染を防止するハードおよびソフト技術などの開発・普及で、民間企業の協力が不可欠なためだ。トゥレ氏は来日しNTT、KDDIなど日本の通信各社幹部らと十九日から会談する予定で、サイバー犯罪対策を含む各分野での協力を要請する。

【表】ITUのサイバー犯罪対策の5本柱

  1. (1) 法制度
         各国が共通して採用できるサイバー犯罪対策の制度モデル構築
  2. (2) 技術的・手続き上の対策
         安全確保のための技術標準、ソフトウエア、ハードウエアの認定基準作成など
  3. (3) 組織的構造
         サイバー犯罪に対する監視、警告、対策を実施する機関の設立、運営など
  4. (4) 能力開発
         特に途上国での人材育成、技術支援
  5. (5) 国際協力
        国際的な対話、協力、協調の枠組み構築

【表】世界で起きた主なネットに絡む犯罪

  1. 2000年 米ヤフーやCNNのサイトが不正操作による集中アクセスでシステム障害
    フィリピンから「I LOVE YOU」ウイルスが世界中にばらまかれる
  2. 2001年 ウイルス「コードレッド」「ニムダ」などが世界中にまん延
  3. 2003年 「ワーム」型ウイルスが原因で世界各地でネット通信障害
  4. 2007年 エストニア政府のネットワークがサイバーテロで停止
  5. 2008年 東京・秋葉原で無差別殺傷事件、ネットで犯行予告

2008/06/19日本経済新聞朝刊より
http://it.nikkei.co.jp/security/news/service.aspx?n=AS2M17036%2018062008