証拠隠蔽(Spoliation)判決を左右する訴訟ホールド

<Rambus 対 Micron事件>

Rambus は、DRAM技術に関する自社の特許を侵害したとして、Micronを訴えた。しかし、この背景には、Rambus 社のしたたかな特許待ち伏せ戦略があった。自社のDRAM技術を採用させ、ライセンシングの形にもっていくことだ。
Rambus 社は、ダイレクトRDRAMの製造を各メーカーが後戻り出来ない時点まで静観し、時を待った。その間、Rambus社内では、Retention Policy(文書保存ポリシー)を策定し、2度にわたる文書の破棄が実行された。
時が満ちると、訴訟のモデルを作り上げるために、最初に日立に対して特許侵害を通告した。当然のことながら、双方に対して訴訟ホールド(Litigation Hold)「電子文書の保全義務」がかけられた。
しかしながら、Rambus社の目論見は外れることとなった。
裁判所の判決は、Rambusの訴訟戦略実行時に本訴訟が合理的に予期できたとして、その時点で訴訟ホールドが発生すると判断、Rambus社の定めた文書保存ポリシー(Retention Policy)による2度の文書破棄は証拠隠滅行為(Spoliation)に当たると結論した。
訴訟ホールド(Litigation Hold)「電子文書の保全義務」が発生するのは、他社からの通告がなされた時点ではなく、訴訟の発生が合理的に予測できた時点であることを再度強調したい。このポイントを間違うと、Spoliation(証拠隠滅)の制裁を課せられる恐れがあるので、各企業の法務部は十分に注意されたし。

FRCPの事例にみる衝撃的なeディスカバリーの重要性

<Qualcomm 対 Broadcom事件>
Qualcomm社は、ビデオ技術に関する自社の特許を侵害したとして、Broadcom社を訴えた。しかしながら、Broadcomが使用した技術は、JVT SSOと呼ばれる標準規格で各企業が参加して策定したものであり、Qualcommもその規格に参加していた。
問題は、QualcommがJVTに参加したのは、標準規格が設定された後だったと主張していた点である。本来ならJVT参加企業は自社の特許を開示する義務があるが、規格が設定された後であれば、その義務はない。
当初、Qualcommから提出されたeディスカバリーのレポートからは、JVT参加についてのEメールも一切見つからなかったため、訴訟はQualcomm有利に進んでいるように見えたが、Broadcomの訴訟弁護士の尋問により、QualcommでJVTとの連絡をとりあっていたある社員のEメールがeディスカバリーの対象から漏れていたことが判明した。
判事の命令により、その社員のEメールが調査され、20通余りのJVT関連メールが見つかった。その証拠を基に、eディスカバリーのやり直しが命令され、結果として、20万ページに及ぶJVTとの交信メールが検出されるに至った。
結局、地裁は、QualcommがJVTに関しての証拠隠蔽行為があったとして、特許権の行使を無効とし、Broadcomの弁護士費用8億5千万円の負担を命じた。さらに、Qualcommの訴訟弁護士に対し、倫理講義の受講、ならびに制裁を命じた。(2008年カリフォルニア州判決)
本判決は、特にEメールに関してのeディスカバリーの重要性を訴える判例となり、弁護士界には衝撃が走った。

Litigation Hold(訴訟ホールド)にいかに対応するか

企業で管理される電子文書(Microsoft Office、電子メールなど)は、各企業の Retention Policy(電子文書の保管ポリシー)に従って、一定期間保存した後で、破棄されています。

しかし、従業員からのクレームや他社からのクレーム文書が届くなど、訴訟になる可能性が判明した時点で、企業には Litigation Hold(訴訟ホールド)「電子文書の保全義務」が発生します。
万が一、この Litigation Hold(訴訟ホールド)「電子文書の保全義務」を怠って、通常通りのサイクルで電子文書を破棄した場合、証拠隠滅行為とみなされ、巨額の制裁が課せられる恐れがあります。
<Litigation Hold(訴訟ホールド)「電子文書の保全義務」発生時のステップ>
・まずは、対象の Custodian(カストディアン)「従業員」に対し、訴訟ホールドの通知を行います。
・通知とともに、カストディアン(従業員)の電子文書の保全作業を行います。この時、保全作業をカストディアンに任せてはいけません。必ず、企業の文書保全技術者が確実な保全作業を行う必要があります。この時に、必要な文書が保全漏れになったり、不必要な文書まで保全したり、保全手順を誤ったりすれば、制裁が課せられたり、企業秘匿の損失につながる恐れがあります。

ECA(Early Case Assessment)の利点

ECA(Early Case Assessment)「訴訟案件の早期評価査定」は訴訟全体のコストを削減するために非常にインパクトがあります。
ECAについて、実際に弁護士を対象に行った調査の結果、以下の事実が判明しました。
<ECAの利点>
・成功の成果:ECAを行った場合、76%の訴訟でよい結果が得られた。
・戦略的計画:87%がECAは訴訟を続行する最良の方法であると回答した。
・経費削減:50%の訴訟で、訴訟費用を削減できた。
・管理予算:弁護士の半数以上がECAにより、より正確な訴訟費用の見積もりができたと回答した。
<ECAの正当性>
つまるところ、ECAとは、訴訟コストを前払いするか、後払いにするかの問題で、ECAの実施により初期費用は高くつきますが、eディスカバリーの開始から数カ月後には、ECAを実施しない場合と比較して、大幅に訴訟コスト削減が可能となります。
結果的に、ECA(Early Case Assessment)「訴訟案件の早期評価査定」により、eディスカバリー全体のコストを 30~40% も削減できます。

ECA(Early Case Assessment)とは?

一度、訴訟としてファイリングされた企業は、その内容を吟味して、裁判に持ち込むか、和解するかについての判断を迫られることになります。
訴訟の工程全体にかかる時間とコストは莫大なため、なるべくその工程の規模を小さく保つことが重要です。
そのためには、訴訟の早期段階において、訴訟事実を評価して、収集すべき情報の対象を絞り込み、訴訟全体のリスクを計算して、戦略的に判断することが重要です。
このように、訴訟の早期段階において、訴訟に関わるリスク・バリューを評価することを ECA(Early Case Assessment)「訴訟案件の早期評価査定」と呼びます。
一般的に、訴訟の起点から 60~90日以内で、訴訟対応計画を立てることを言います。
ECA(Early Case Assessment)は以下の3項目を解決するのに重要です。
・eディスカバリーに費やされる時間とコストの見積もり
・リスクと和解金を決定する訴訟事実の評価
・面会協議の準備

eディスカバリー動向

米国のeディスカバリー企業のリサーチ結果によると、最近のトレンドとして以下の傾向が伺える。

・78%の回答者が、2008年に比べ、2009年の方が訴訟と規制についての問い合わせ数が増加したと回答した。
・3分の2以上の回答者が、2010年は訴訟と規制についての問い合わせ数が最低でも20%は増加すると見込んでいる。
・大多数の回答者は、2010年の増加は訴訟数の大幅な増加によるものであり、46%の回答者は規制についての問い合わせ数が増加するだろうと予測している。
・48%の回答者は、eディスカバリーを社内で行おうとするプロジェクトに取り組んでおり、36%の回答者が1年以内に企業内eディスカバリーの実現に向けて取り組む予定であると回答した。
世界的な経済の悪化が訴訟の増加に拍車をかけていることは間違いない。米国に支社をもつ日本企業もeディスカバリーの対象となるので、十分に注意されたい。