訴訟ホールドとは訴訟、監査、司法調査の可能性があると判断された段階で「関連した全ての資料・情報をそのままの状態で安全に保存する」というプロセスです。2006年には米国Federal Rules of Civil Procedure (FRCP)に「電子保存情報」の電子ディスカバリーの必要性が追記されており、電子保存情報に対してのポリシーが規定されるようになりました。
訴訟ホールドは法務部もしくは弁護士がイニシアチブを取って行われますが、電子的に保存されたファイルやメールという証拠に改ざんや消去がされないようにしなければなりません。
これを怠ると裁判所からペナルティの制裁金が課せられたり、証拠を改ざんしたと見なされて裁判で不利になるばかりでなくこの事が理由で敗訴さえしてしまう可能性があります。
訴訟ホールドは基本的に3つのプロセスから構成されています。
① 保存通達
訴訟、監査、司法調査の可能性があると判断された段階で、関連する電子情報の保存義務が生じます。その際にはカストディアンに対して関連電子情報を保存する義務があるとの通達をしなければなりません。
② 電子情報の分別保管
保存が通達された後に関連する電子情報を収集し、関係の無い情報を除外するカリングを行い、外部からアクセスが出来ない分別された安全なストレージに保管しておく必要があります。これは保存された情報が消去されたり改ざんされたりするリスクを無くすためです。
③ 継続的な保存義務
訴訟ホールドが執行された以降は、新たに発生した電子メールやファイルも関連するものであれば保存対象となりますので、これらの徹底した管理が必要です。
訴訟ホールドを怠った為にペナルティが課せられてしまったケース例:
* Coleman Holdings v. Morgan Stanley (Florida Cir. Ct. 2005)
Coleman社がSunbeam社を買収する際、仲介したMorgan Stanley社がSunbeam社の財務状況を不正に修正したとされる裁判。訴訟ホールドを故意にしなかったとして1,500万ドルの制裁金がMorgan Stanley社に課せられた。本裁判にも敗訴し15億ドルの賠償金命令。
* Zubulake v. USB Warburg(SDNY 2004)
妊娠した従業員の不当解雇の裁判でUSB Warburg社が証拠となる電子メールを意図的に削除したとされ、2,900万ドルの制裁金が課せられた。
* U.S. v. Philip Morris USA, Inc.(D.D.C. 2004)
タバコの健康被害に関する米国政府とPhilip Morris社との訴訟で、関連する電子メールを保全する義務を怠ったとして275万ドルの制裁金が課せられた。
* TR Investors v. Genger(Del. Ch. Dec. 2009)
投資家によるCEOの解任訴訟で、CEOであるGenger氏が関連メールを意図的に破棄したとして75万ドルの制裁金が課せられたもの。
訴訟ホールドはe法務ディスカバリの重要なプロセスであり、担当弁護士と社内IT部門の密なコミュニケーションをしておく必要があります。弁護士は関連する電子保存情報を所有しているカストディアンを認定して訴訟ホールドをかけます。IT部門は訴訟ホールドを具体的に行う技術的な方法や手続きを行い、社内の訴訟ホールドポリシーに従い情報を集約し保全しておく必要があります。
電子保存情報には、電子メール、データベース、ワードやエクセルなどのドキュメント類、ボイスメール、テキストメッセージやカレンダーなども含まれます。訴訟ホールドは証拠が改ざんされないようにする極めて重要なプロセスですので、エクセルシートでマニュアル的に管理するようなやり方は非常にリスクが高い方法になってしまいます。
その為に現在米国では電子ディスカバリーの一環として訴訟ホールドをソフトウェアで管理するのが主流となっています。
SaaSベースの単独訴訟ホールドサービスからEDRMのトータルソルーションの一部としての訴訟ホールド機能と様々なソフトウェアツールが提供されています。こういったソフトツールを使うことはリスク低減という観点からも避けられない状況になっているようです。
訴訟ホールドを提供している代表的なベンダーを参考までに記しておきます。
1. ATLAS (http://www.pss-systems.com)
2. Autonomy (http://www.autonomy.com)
3. Bridgeway (http://www.bridge-way.com)
4. CASEGUARD (http://www.caseguardtech.com)
5. Clearwell (http://www.clearwellsystems.com)
6. Exterro (http://www.exterro.com)
7. Method (http://methodlegalhold.com)
8. MITRATECH (http://www.mitratech.com)
9. ZAPPROVED (http://www.zapproved.com)
訴訟/コンプライアンスに際してのデータ保全ポリシーに関して
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/カテゴリ: eディスカバリー, 最新米国情報「セキュリティー用ソフトウエアメーカーで最大手の米シマンテックは、非公開企業の米クリアウェル・システムズを約3億9000万ドル(約318億円)で買収することに合意した。法律情報の管理システムを取得する。」5月19日(参考【ブルームバーグ】:http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=a73P2jokccOU)先週、シマンテックが電子ディスカバリーソリューションを提供しているクリアウェル・システムズを買収するというニュースがありました。クリアウェルはセコイヤキャピタルなどからベンチャー投資を受けた米国シリコンバレーの企業。設立は2005年で従業員約200人、売り上げ約5000万ドル(約40億円)。
クリアウェルはEDRMの全てを単一アプリケーションでプロセス出来るソフトウェアが強み。元々はプロセシングモジュールからスタートしましたが、レビューモジュールなどを追加し、最新バージョンではコレクションやリーガルホールドのモジュールも組み込んでいます。今回のシマンテックによる買収額は売り上げの約8倍です。
同じ電子ディスカバリーソリューション企業で上場しているガイダンス・ソフトウェアは、売り上げは約1億ドル(約80億円)とクリアウェルの倍ですが、現在の時価総額は約1億9000万ドル(約150億円)。売り上げをベースに計算すると、クリアウェルの時価総額は、ガイダンスの4倍という事になります。
シマンテックがプレミア価格でクリアウェルの買収をしたのは;
などの理由が考えられます。
シマンテックとクリアウェルではリーガルホールドやコレクションなど重複する機能もあるので、今後両社がどうインテグレーションして市場展開をしていくかが期待されます。
訴訟ホールド(Litigation Hold/Legal Hold)に関して
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/カテゴリ: eディスカバリー, コンピュータ・フォレンジック, モバイル・フォレンジック5月11日から13日まで開催された第8回情報セキュリティEXPOに、AOSが出展しました。会場は、かなりのにぎわいを見せていました。
AOSのブースでは、e法務ディスカバリ、e法務フォレンジックなどのe法務ソリューションを展示しました。
訴訟や情報漏洩などへの事前対策となる「予防法務ソリューション」としてログ管理ソフトの「スペクタープロ」、フィルタリングソフトの「Net Nanny」を展示。
また、それらの事後対策となる「訴訟対策ソリューション」としては、パソコンフォレンジック、モバイルフォレンジックを展示しました。
会期中は、たくさんのお客様にご来場いただきました。誠にありがとうございました。
電子情報の保全の重要性
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/カテゴリ: eディスカバリー, 最新米国情報今回はGreen v. Blitz U.S.A., (E.D. Tex. Mar. 1, 2011)のケースをご紹介します。製造物責任訴訟に於いて、被告(Blitz USA社)は原告(Greenさん)とすでに和解をしていたのですが、2年後の別の訴訟に於いてBlitz社側がe法務ディスカバリのホールドをきちんと行っていなかった事が判明し、裁判所から「露骨なディスカバリー侵害をしていた」として、すでに和解をしていたGreenさん側にも25万ドルの制裁金を支払うように命じたものです。
http://www.ediscoverylaw.com/uploads/file/Westlaw_Document_Green(1).doc
被告であるBlitz社はガソリン容器の製造メーカー。原告のGreenさんは、彼女の夫がBlitz社の製造したガソリン容器を取り扱い中に爆発事故で死亡したのは、被告の製造したガソリン容器に「火災防止機能」が無かったからだとした訴えましでた。最終的に被告側が原告側に和解金を支払うことで、この訴訟案件は2年前に終了していました。
ところが、最近になってBlitz社が起こされた別の製造物責任訴訟で、Blitz社が「関連する電子メールの削除をするように」と従業員に社内通達していた事が判明したのです。
裁判所は、Blitz社が訴訟申請があった際に適切な「Litigation Hold(訴訟ホールド)」をしてデータを保全する義務を怠った、とも判断しました。Blitz社が行った「Litigation Hold」とは、ある担当社員が関連すると思われる従業員達に「電子データを探してくれ」とリクエストしただけでした。IT部門に電子データの適正な抽出の方法などの相談もしていなかったので、その結果、社内電子データへの検索などがされませんでした。さらにBlitz社は、関連したメールを削除するように社員に命じてもいました。
裁判所はBlitz社が「意図的にe法務ディスカバリの義務を無視して、訴訟の鍵となる電子文章の提出を怠った」と判断しました。
実際、Blitz社内にはガソリン容器に「火災防止機能」を取り付けなければ危険だという認識があり、それに関する電子メールでのやりとりがされていたのです。
また裁判所は「e法務ディスカバリをきちんと行うという意思をもってキーワードサーチを行えば、関連電子メールの抽出は可能であった。しかしBlitz社の担当者は、IT部門へe法務ディスカバリをどう行うかの相談もしていなかった」との認識を示したのです。
Greenさんの担当弁護士はその事実を知り、和解から2年経ていたのですが、Blitz社に対するケースを再びオープンにするように裁判所に申請をしたものです(推測ですが、和解金をより多く得たいという目的があったのかもしれません)。
裁判所はすでに完了した訴訟を再度オープンする事は出来ないとして再審請求を却下しました。但し民事制裁金として25万ドルをGreenさんに支払うようにBlitz社に命じたのです。
このケースの特徴は、訴訟のため社内でのデータ収集をする際に、e法務ディスカバリのプロセスを全く知らない従業員が対応したことです。これは絶対に犯してはいけない間違いです。これはまるで、ロープの上を安全ネット無しに歩くと同じことです。
社内データを収集する時には、その収集の仕方、キーワードなどを透明化し、e法務ディスカバリツールを用いてそのプロセスを「防御」出来るようにしておかなければなりません。短期的な視点から、コストのかからない社内リソースのみで対応した結果、長期的には制裁金が課せられてしまった訳です。
e法務ディスカバリに「100%完璧」はありません。但しe法務ディスカバリを知らない従業員にデータ収集を任せる事ほど高いリスクはありません。
企業にとって、e法務ディスカバリツールは「安全ネット」とも言えるかもしれません。