ニューヨークのリーガルテック2011の動向

ニューヨークで毎年1月末にリーガルテックという展示会が開催されています。これは法律に関わる人達が使うITの展示会でe法務に関するソリューションが数多く出展されています。
今年のリーガルテックでもクリアウェル、ガイダンス、EMCなど代表的なe法務ベンダーが展示をしていましたが、各ベンダーが注目していたのは「社内e法務」でした。
日本ではe法務を行う際はサービスベンダーに依頼をする場合が多いと思われますが、機密情報への対処、e法務を訴訟だけのピンポイントで使うのではなく、ビジネスプロセスとして日常的に社内で使うケースが多くなってきています。
但しe法務を社内で行う際には「社内でe法務をサポートする体制になっているのか」という問いに答えなければなりません。またITの側面からデータセンター、クラウド、端末からのデータ収集が効果的に行えるのかという事も重要です。
e法務の導入が進んでいるアメリカでもe法務が一般的な新聞の話題になる事はあまりありません。
3月4日付けのニューヨークタイムスに「Armies of Expensive Lawyers, Replaced by Cheaper Software(高価な弁護士軍団が安いソフトウェアに置き換わる)」という記事が掲載されました。以下はその記事の抜粋です。
1978年にメディア企業であるCBSは訴訟で600万点の書類を220万ドルのコストをかけて精査したとあります。コストの主な内訳は弁護士に数ヶ月に渡って支払う書類の精査に掛かる費用でした。2011年の1月にCBSは1500万点の書類を精査しましたが、掛かった費用は10万ドル以下でした。
この明らかなコストダウンはe法務ソフトウェアを使うことにより実現出来たとあります。e法務ソフトウェアが「関連のある書類のみ」抽出してくれるからです。
例えば「中東でのデモ」に関する書類を社内のデータベースから探すために、弁護士達は数百万もの関連の無い書類に目を通して除外しなければならないのです。
昨年弁護士事務所のDLA-Piperはクリアウェル社のソフトウェアを用いて57万もの書類を2日で精査しました。3日目には3,070の関連ある書類のみ抽出して訴訟の対応をする事が出来ました。人間が手作業で行えは数週間、数ヶ月かかったプロセスです。
ある化学薬品会社担当の弁護士であるHerr氏は80年代及び90年代の過去のケースを再度e法務ソフトウェアで精査してみたところ、当時の人手によって長期間かけて行われた書類の精査の正確性はe法務ソフトウェアを使った場合と比較して60%の精度だったとの事です。
e法務ソフトウェアは膨大な電子情報を持つ企業にとっては必要不可欠なビジネスツールなのです。

Eディスカバリー調査「The Socha-Gelbmann Electronic Discovery Survey」

George Socha and Tom Gelbmannによる電子情報開示(EDDElectoric Data Discovery)に関する調査。

2003年から連続して実施されているもので、2009年の調査は、主に市場規模、トレンドなどにフォーカスした調査だった。

以下、特に注目すべきポイントをご紹介する。

  1. 09年のEDD市場バリューは、前年比約10%増しの約28億ドルになると予測、さらに2010年、11年には、10%から15%の成長が予想されている。ちなみに09年の金融崩壊の津波が来る以前は、09年には30%、10年には25%の成長が見込まれていた。
  2. EDDマーケットは成熟しながら成長を続けるが、近年の経済危機を踏まえて、eDiscovery関連コストを抑制する努力に一層拍車がかかっている。08-09年に特徴的だった動きは、”より左側へ” というもので、EDRMモデルの図 の “左側へ” 注力しようという流れだ。つまり、最もコストと時間が掛かるレビュー部分よりも手前にある「情報管理」「情報識別」「情報・データの保全」などの段階に注力して、EDDを効率よく実施しようという傾向である。
  3. EDD(電子情報開示)は、弁護士にも顧客(企業)にもより一般的なプロセスとなるため、情報管理の重要性がさらに一層高まる。

ちなみに2010年の調査は、Eディスカバリーの商業サービスとソフトウェアについてフォーカスされている。例年、年末前には結果が公開されているので、10年版もそろそろ発表されるだろう。

E-Discovery スペシャリスト認定試験(米国)

ACEDS(Association of Certified E-Discovery Specialists)が、eディスカバリー分野では初の、認定資格試験を実施すると発表した。
これは計量心理学に則った試験であり、50以上のeDiscovery、計量心理学、検定分野の専門家の参画によって実現に至った。
CEDS試験では、コストコントロール、予算管理、倫理観などから、訴訟ホールド、保全、データカリング、情報審査(レビュー)などについての知識を測る。特定のソフトや製品の知識を問うことはしないし、製品トレーニングも行われない。
試験はUS314箇所、カナダ28箇所などの519箇所で実施される予定。
受験者は、CEDS Examination Candidate Handbook(PDF)の他、受験資格や応募方法などの情報をACEDSのウェブサイト(ACEDS.org/certification)から取得することができる。

eDiscoveryの対象となったRAM内データ

eディスカバリー(電子情報開示請求)では、ESIの範囲がどこまで広がるかは大きな関心事だ。
RAMのデータがESI(Electrical Stored Information)として提出対象となった有名な判例がある。
コロンビアピクチャーズがTorrentSpyを著作権侵害で訴えた裁判で、その判決が2007年6月公開されると、驚きをもって迎えられた。
BitTorrentが運営していたサイトTorrentSpy.comは、Torrentファイル向けの人気検索エンジンで、Bit Torrentファイル共有プロトコルでファイルを公開・検索可能にしていた。
判決では、原告側の主張を大幅に認め、TorrentSpyにユーザーのログ提出を命じた。TorrentSpyは、ユーザーのプライバシーを保護するためサーバーなどにも一切ユーザデータは保存していないと主張していた。しかし原告側は、コンピュータのRAMにはユーザー情報が残されているのでそれを証拠として提出するよう求め、それを認める判決が出されたのだ。
RAMのデータは一時的にストアされるだけで、無論その証拠能力、保全性は限界がある。しかしここでは、提出できる証拠は存在しないという主張をRAMの存在が覆したことの意義が大きい。FFとCDTは、RAMはキーボードのキーストロークやデジタル電話システムでの会話まで一時的にストアすることから、この判例の影響が過大になり得ることを懸念し、判決を覆すよう法廷助言書の提出をしたほどだ。
誠実に公正なビジネスを行っている一般企業では、RAMについて、この判例を理由に過剰に神経質になる必要はないだろう。しかし、テクノロジーの進展に伴うビジネスや生活の変化によって、訴訟に伴うESIの概念も常に変化していくことは間違いない。

コピー機内のデータもe-Discoveryの対象となるか?

コピー機や多機能プリンターには、ハードディスクドライブが内蔵されています。
先頃、中古コピー機内のHDDを取り外してフォレンジックツールで調査したところ、過去にコピーされた文書データが続々と検出された、というセンセーショナルなTV報道がありました。
それでは果たして、コピー機のハードディスクに保存された記録も、電子証拠開示(eディスカバリー)、訴訟ホールド(Litigation Hold)の対象となるのでしょうか?
コピー機のハードディスクには、印刷、コピー、スキャンなどのために一時的に文書データが記録されるため、フォレンジックツールで復元される可能性があることは確かだと言えます。
しかし現実的には、最近のほとんどのコピー機は印刷ジョブが終わると自動的にデータが抹消されるようになっており、訴訟ホールドの対象としてコピー機のデータを保全できる可能性は非常に限られているのが実情です。また、コピー機で保全できなくとも、オリジナルデータを作成したPC側のHDDを保全できるケースが殆んどでしょう。
訴訟に関連しうる全ドキュメントやデータを他から区別して、改ざんや破棄、隠匿されないように確保する「訴訟ホールド」。訴訟ホールドの対象となるデータが適切であることは、最も重要なeDiscovery対策のひとつです。今後、コピー機以外にも、身近なデジタル機器で訴訟ホールドの対象となりうるものが増えていくでしょう。訴訟コストを適切に抑えるためにも、何のデータを対象とすべきか、正確な判断が求められます。

訴訟ホールド(Litigation Hold)の実行

eディスカバリーにおいて、関係者への訴訟ホールドの通知が完了したら、いよいよ訴訟ホールド(Litigation Hold/Legal Hold)の実行に移る。訴訟ホールドの対応が如何に重要かについては再三伝えてきたが、FRCP(連邦民事訴訟規則)が設けたセーフ・ハーバーを基に、証拠隠蔽(Spoilation)制裁を受けないための要点を強調したい。

<FRCP規則37[e]>
セーフ・ハーバーは、その操作が誠意をもってなされた場合に限り、情報システムの日常的な操作により喪失した情報に適用される。誠意をもった操作には、情報の保全義務の対象とされている情報の喪失防止のため、第三者の介入による日常的な操作の特定の機能停止や変更を伴う場合がある。
要するに、訴訟ホールドへの対応に関して誠意をもって行っていれば、証拠破棄(Spoilation)による制裁を受ける恐れが低くなるということである。
現在の情報システムは複雑になり、どこに自分のESI(電子情報)が保存されているのか正確に把握できないような状態になっている。特に大企業ではなおさらだ。そんな状況に配慮してFRCP規則37[e]は設定されたという経緯がある。
裁判での証言で、「私は訴訟ホールドの指示を受け、受領の返信をした後、関連文書の削除を停止し、IT担当者は、その後文書の自動削除スケジュール処理を停止しました。」 「私は、訴訟ホールドに従い、関連範囲のメールの削除をやめました。」という訴訟ホールドに誠意をもって対応したという事実がセーフ・ハーバーにつながり、制裁の可能性を大きく低下させる。
一番良くないのは、訴訟ホールドの通知を受けていながらも、「私は関係ないと思ったので、指示に従わなかった。」 「知っていたけど、行わなかった。」というような証言だ。このような証言が従業員から出てこないように、法務部のしっかりとしたeディスカバリー教育が必要である。

訴訟ホールド(Litigation Hold)の実施段階

eディスカバリーにおいて訴訟ホールド(Litigation Hold/Legal Hold)実施の具体例について見ていきたい。

訴訟ホールドの発生条件を満たし、その範囲が決定したら、いよいよ訴訟ホールドの実施段階だ。手順としてはおおよそ次のようになるだろう。
・企業内の訴訟ホールド対象部署、対象従業員とその上司、各関係会社に、訴訟ホールドの通知を行う。メール、回覧板、口頭による通知を行い、その通知を受け取った旨を必ず返信してもらう。
・訴訟ホールドの通知書に以下の内容を記述する。
訴訟ホールド実行者の名前と所属、訴訟ホールドの重要性について、罰則規定、訴訟ホールド実施の理由(裁判所命令、訴訟など)、通知書送付の理由、保全すべきデータ、取扱いデータの削除行為の禁止(コンピューター、携帯、PDA、USBメモリなどすべて)。
・対象データの保全と収集のため、IT部門と協力する。
実際、ESI(電子情報)に精通しているのは企業内のIT部門であるから、IT部門の協力なしには適切な訴訟ホールドは実施できない。必ずIT部門と密な対応をとることが重要である。

証拠隠蔽(Spoilation)判決を避けるには?

eディスカバリーにおいて何よりも重要なことは、訴訟ホールド(Litigation Hold/Legal Hold)「文書の保存義務」の対応をしっかりと実施することだ。訴訟ホールド対応を失敗してしまうと、せっかくの勝てる裁判を台なしにしかねないからだ。

訴訟ホールドは、将来の訴訟が予見された時点で発生し、関連文書の保全義務が発生する。企業の通常のRetention Policy(文書保存ポリシー)をすぐに停止し、保全すべきESI(電子情報)の範囲を見極める必要がある。保全が必要なESIを破棄してしまえば、証拠隠蔽(Spoilation)の制裁につながるからだ。
<証拠隠蔽(Spoilation)の制裁>
実際にSpoilationの制裁が課せられるか否かは一般に次の要素で決まる。
・証拠破棄を実施した側の過失の度合い
・訴訟相手によって被った不利益の度合い
・当事者によって請求された制裁の度合い
<証拠破棄(Spoilation)とみなされないためには?>
何もSpoilationの制裁を恐れて、行動する必要はない。データ保全・収集のよい例を参考に挙げよう。
・適切な訴訟ホールドの実施時期と適用範囲の決定
・クレーム内容に関する適切なフォローアップ努力
・ESIを識別するための適切な検索キーワードの決定理由
大事なことは、双方ともに完璧さを要求されているのではなく、誠実に、適切に訴訟ホールドの対応を実施することにある。

eディスカバリーにおける画像ファイルの対応(ESI Culling)

ESI(電子情報)には、メールや文書ファイルのようなテキストファイルだけでなく、大量の画像ファイルも含まれている。eディスカバリーのデータ収集、データ処理・加工の工程において、画像ファイルはどのように対処すればいいのだろうか?
テキストファイルであれば、キーワード検索による絞り込みによって、容易に対象範囲を絞り込むことは可能だが、画像ファイルはそもそもキーワード検索ができない。不要な情報をデータ収集することは、後の工程で無駄なコストを発生させるし、必要なデータを除去(ESI Culling)してしまうことは、証拠隠蔽行為(Spoilation)につながる恐れがある。
ここでは、画像ファイルの対応について、いくつかのヒントを紹介しよう。
・メタデータに対するキーワード検索による絞り込み
画像ファイルには、通常、作成日、撮影日、作成者など、ソフトまたはハードによって埋め込まれたメタデータが存在する。このメタデータに対し、キーワード検索を行って、情報を絞り込むことが可能だ。
・日付範囲、画像種類によるデータ除去(Culling)
撮影日などの日付を利用し、日付の範囲で画像を絞り込むことが可能だ。
・OCRソフトの使用によるキーワード検索
画像ファイルに対して、OCRソフトを使い、画像にファイルに含まれるテキストを読み込み、キーワード検索をかけることが可能だ。画像の品質にもよるため、完璧な認識は不可能だが、それでも95%以上の認識率を維持できる。
上記の手段を組み合わせることで、画像ファイルについても電子情報除去(ESI Culling)を行い、eディスカバリーのコスト削減を期待することができる。

訴訟ホールド(Legal Hold)対応で失敗しない方法

eディスカバリーで不利な制裁を避けるためには、まず徹底した訴訟ホールド(Litigation Hold/Legal Hold)「文書の保全義務」対応を心掛けたい。というのも、不意にまたは故意に行った訴訟ホールド期間の文書破棄は、証拠隠滅行為(Spoilation)につながるからだ。

失敗しない訴訟ホールド対応のための、ESI(電子情報)の保全について必要な7つのステップを以下に挙げる。
ステップ1:訴訟ホールドとなる引き金を識別する
ステップ2:文書保全の義務があるのか分析する(訴訟ホールドは必要か?)
ステップ3:訴訟ホールドの適用する範囲を決定する
ステップ4:訴訟ホールドの通達(従業員に対する通知と情報の保全の実施)
スッテプ5:訴訟ホールドの実施と有効性について調査する
ステップ6:訴訟ホールドを修正する(必要であれば)
ステップ7:経過を監視し、訴訟ホールドを解除する
各企業の法務部は上記のステップに従った訴訟ホールド対応を、訴訟時に備えて日頃から訓練しておきたい。
Special thanks to: John Isaza and John J. Jablonski @ LAW.com